大阪高等裁判所 昭和29年(く)36号 判決
被告人 K
案ずるに、少年法第五五条の決定に対しては即時抗告は勿論その他のすべての抗告も許されないものと解すべきである。けだし旧少年法(大正一一年法律第四二号)第七一条第一項の決定に対しては同条第二項より検事が抗告をなし得ることになつていたので、その反対解釈として被告人から抗告を申立てることができないことは疑なきところであるが、新少年法(昭和二三年法律第一六八号)第五五条には右旧法第二項の如き規定は存しないので、論議の余地なしとしない。しかし新少年法は旧少年法に比し、いわゆる保護優先主義を強調することとなつた結果、旧法第七一条第二項の如き規定を新法第五五条中に設けなかつたものであつて、従つて新法の下においては旧法の如く検事の抗告権をも奪つたものであり、いわんや被告人に対しては抗告をなすことを許さない法意なりと認むべきである更に新少年法第四〇条によると、少年の刑事事件については刑事訴訟法の規定が適用されるのであるが、刑事訴訟法第三編第四章の諸規定に照らせば、新少年法第五五条の決定に対し即時抗告ができる旨の規定なき以上、同条の決定については即時抗告は許されざるものと解すべきであり、又普通抗告又は特別抗告についても、これらの抗告ができるのは、如何なる場合にも原決定を取消す実益が存続することを条件とするものなるところ、当該決定によつて直ちに刑事事件として形式上事件が終結する少年法第五五条の決定については、原決定を取り消す実益が存しないものとして、いずれの抗告をも許きないものとしなければならない。これ即ち少年に対する保護処分は、少年院に収容する場合であつても刑罰を科するものでなく、少年の健全な育成を期し、性格の矯正及び環境の調整を所期する当然の帰結たるが故である。ただ本件において抗告人が主張する如く被告人が罪を犯した者ではなく、非行ありということもできない場合は刑事事件の判決としては無罪の言渡を受けるのみで、保護処分に付せられることがないので、原決定を取り消す実益がないということができないであろうか、原決定は被告人を有罪なりとして刑を言渡すべきを特に保護処分を相当としているのであるから、原決定を取消す実益なきものといわなければならない。されば本件即時抗告は不適法としてこれを棄却すべきである。しかも取寄にかかる被告人に対す現住建造物等放火被告事件記録を精査するに原決定摘示の事実はその挙示する証拠によつて認め得られるのであつて、この点においても本件抗告は理由なきものである。
(裁判長 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衞)